ナイフ事件
いきなり物騒なタイトルですみませんが、
バイオレンス要素は一切ありません。
前回の通学路うんこ事件でぼくを助けてくれた
同級生のたけしまくんの話です。
彼は文字通り
友達の尻拭いができる
頼れる男なんですが相当な変わり者でして、
そんな彼が引き起こした惨劇がこのナイフ事件です。
中3の頃なんですが、
クラスでクリスマスパーティーがありまして、
そこでおませな女子が
フィーリングカップル
という
最高にテンションの上がるイベントを企画してくれたんですよ。
(念のため説明しますと
男女それぞれ好きな異性を指名し、
両想いならカップル成立というアレです)
同じクラスだったたけしま君はそこで見事
軽音部のめっちゃかわいいSさん
とカップル成立しました。
ただ、Sさんは当時軽音部に好きな男がいるともっぱらの噂で、
その男が別のクラスだったためやむを得ず
たけしま君を外れ一位指名
したんじゃないかと、たけしま君自身も半信半疑だったんですが、
周りの男子が、
「お前と付き合った方が幸せになれる」
「Sさんがお前の顔が一番タイプって言ってた(気がする)」
「いけるぜたけしま!」
と無責任にたけしま君を煽りまくりまして、
実際Sさんの好きな男というのが
言っちゃなんですが学年でも悪名高くて、
耳の下半分なくなるんじゃないかという
ばかでかいピアス穴を空け、
校則で禁止のバイクに乗り
県道を130キロで逆走して事故る
という武勇伝をもつ絵に描いたようなヤンキーでしたので、
たけしま君もこれはいけると思ったのか乗り気になってくれたんですね。
フィーリングカップルのルールとして
成立したカップルは必ずデートに行くこと
という中3とは思えないほど
充実したアフターサービスがありましたので、
決断力に秀でたたけしま君は
もうそのデートでSさんに告白すると宣言しました。
そこで僕たちに色々と相談してきたんですが、
「Sさんはどんな男がタイプなのか?」
という話になり、
先ほどの耳が欠けた不良にほれるくらいだから
「悪い男」が好きに違いない
↓
↓
悪い男になるにはどうしよう
↓
↓
ナイフじゃん?
という
バカしかいない会議にありがちな
とんでも結論に達しまして、
ただ本物のナイフを持ち歩くのは犯罪なので
たけしま君は
おもちゃのナイフ(押すと刃先が引っこむやつ)
を購入し、意気揚々とデートに望みました。
デートの次の日、
たけしま君は一目で
「ダメだったなこれ」
とわかるほど落ち込んでおり、
教室のベランダでさっそく男子会が開催されたんですが、
一言目から
「ナイフで刺して逃げてしまった・・・どうしよう・・・」
という驚愕の発言が飛び出しました。
詳しく話を聞くと、
無難に映画デートをこなした後、
たけしま君は勇気をふりしぼってSさんに
「付き合ってくれん?」
と告白したのですが、
案の定
「好きな人がいるからごめんなさい」
と断られてしまったそうなんです。
焦ったたけしま君はなぜかそのタイミングでナイフを取り出してしまい、
あまりの恐怖で硬直したSさんを見てさらにパニックに陥り、
「これ大丈夫なナイフだから!」
と叫んでSさんを刺し(もちろん ピコっと刃先が引っこみました)、
無言の空気がいたたまれずそのまま走って逃げてしまったとのことでした。
悲惨すぎて誰も笑ってあげられませんでした。
その後、クラスのイケメンを通して
Sさんら女子に事情を説明し、なんとか分かってもらいました。
たけしまくんは悲しみをバネに勉強に打ち込み、
今は医者の卵として活躍しています。
長年の付き合いですが、
マジックナイフで女の子を刺して逃げた彼が、
今はメスを握って人を助ける仕事をしている
というのはすごく感慨深いですね。
ただ、ちょっと前にたけしまくんが
アメリカの研究所出身の
大金持ちの美人女医
と交際を始めたことにより、
20年来の友情が終わりを告げました。